2017年7月29日土曜日

全能の神が存在しないことの証明

前回、選言除去則を使った。((A∨B)∧(A⇒C)∧(B⇒C))⇒Cっていうあれだ。せっかくだから、これを使って一つどうでもいい証明をしてみよう。

タイトルの通り、全能の神が存在しないことを証明してみせる。これを考えたのはもう、20年前だろうか。ずいぶん経ったなぁ。

全能の神ってどんな神?


ところでまずは、全能の神とやらがどんな神様なのかを定義しておこう。それは、文字通り、語義通りの全能としておく。

ギリシアの主神ゼウスも全能の神などと言われたりすると思うが、あれは全然全能じゃない。だってかみさんにびびって隠れてるじゃないか。全能というなら、怒り狂ったヘラをなだめるくらいできないわけがない。

何か一つでもできないことがある時点で全能ではない。あまりそういう言い方はしないかもしれないが、ここでは全能という言葉をそういう意味で使うことにする。

だから全能の神が存在するとすれば、それはもう本当に何でもできなければいけない。犬を猫に変えることも、死者を生き返らせることも、太陽を消し飛ばすことも、昨日を明日にすることも、ありとあらゆることが。

ちなみに、現代の科学では、神が存在しないことは証明できていない。オッカムの剃刀でそぎ落とすから、神の存在を受け入れる科学者はいないかもしれないが、存在しないことを証明した科学者はいない。少なくとも私は知らない。知ってたら教えてくれ。

全能の神が存在しない証明


しかしながら、今定義したような意味での全能の神が存在しないことは証明できる。なぜならば、そのような神は語義的に矛盾するからだ。

やってみよう。

1、全能の神が存在すると仮定する。

2、その神に「あなたの思い通りにならない世界を作ってください」とお願いする。

3、神が「俺様は全能の神だから、そんな世界は作れない」と答えた場合、その神が全能ではないことが確定する。

4、神がその世界を作ってくれた場合、「じゃあ、その世界をあなたの思い通りにして見せてください」とお願いする。

5-A、神がその世界を思い通りにしたならば、神の思い通りにならない世界を作れなかったことになり、その神は全能ではないことが確定する。

5-B、神が「この世界は俺様の思い通りにならないように作っちゃったから、そいつは無理な相談だぜお嬢ちゃん」というのなら、その神が全能ではないことが確定する。

かくして、それ以外のすべての能力を持っていたとしてもなお、これだけは語義的に矛盾してしまうので、全能の神は存在し得ないことになる。

これが選言除去則


5-Aと5-Bを見てほしい。これはつまり、「思い通りにできるかできないかのどちらかであることは間違いないよね。で、思い通りにできたとしても全能じゃないし、思い通りにできなくても全能ではない。じゃぁ、どっちにしたって全能じゃないんだから、全能じゃないことは確実だね☆」という論法だ。

論理学ではこれを((A∨B)∧(A⇒C)∧(B⇒C))⇒Cと書いて、選言除去則と呼ぶことになっている。便利だろう?

そしてこの話で面白いのは、神ですら矛盾は許されないということだ。別に、こんなまどろっこしいやり方で証明するまでもない。「僕を独身のまま、結婚させてください」と言えばいい。

さて、神様はどうするだろうか?

結婚させることは簡単だろう。その程度のこともできないで全能の神を名乗るわけがない。・・・ああ? おまえのような中卒ニートの結婚相手を見つけるのは、全能の神にも難しい? ・・・言ってろ。

しかし問題はそこじゃない。「独身のまま」と言う条件が厳しい。だって、結婚したら独身じゃなくなってしまう。独身というのは「配偶者がいない」状態を表す言葉であり、結婚すると言うことは「配偶者になる」ということだ。

「配偶者を持ちながら配偶者がいない状態にさせてくれ」という要求には、全能の神であっても応えようがない。神といえども、矛盾はできない。これが矛盾の強さであり、矛盾を引き出す論理能力の強さでもある。

ちなみに、言葉遊びでクリアする道はある。たとえば、「結婚」とか「独身」の意味を再定義してしまえばいい。今まで使ってる意味とは全く別な形で定義すれば、両立させられる。それは当たり前だ。だが、それはあまりにくだらない。

ゲームのキャラクターに「全能の神」という名前をつけて、「ほら、ここに全能の神が存在するよ」と言ってるのと変わりがない。それなら確かに、神でもドラゴンでも魔法でも、何だって存在することにはできるだろう。

あほくさすぎるが。


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